『空のハモニカ−わたしがみすゞだった頃のこと−』
支えてくださいまして、本当にありがとうございました。
舞台を綴る大切な記録、舞台写真をご紹介いたします!
ここにご紹介するのはほんの一部分ですが
舞台の雰囲気を感じ取っていただければ、幸いです。
撮影/伊藤雅章

弥次郎「――シジンの子だ、あんた。」
ふさえ「え?」
弥次郎「思い出した。エンピツが前に言ってたんだ、桜餅食いながら……。
――姉さんは詩人だった。すごくいい詩を書いたって。」

ふさえ「母さん――あたしが生まれてこんかったら、いまも傍におってくれた?」

秋枝「――どうせ恋仲になって駆け落ちしたっちゅうそういうアレやろ。」
花井「誰が好き合ってなんか!旦那さまの言いつけじゃ!」
秋枝「言いつけ?!ほいでどうして追い出されんね。」
花井「それは!」
テル「花井さん!」
花井「眼鏡違いってやつですよ! (失言に気づき)……!」

正祐「聞こえん?この手紙――だけやない、向こう側、もっと沢山の人の喝采、「おかえり」の声が!」

テル「『みすゞ』。これがわたし。こんなにも遠い、わたし――。」

てる「はるかの沖の、あの舟は、/いつも、港へつかないで、/
海とお空のさかいめばかり、はるかに遠く行くんだよ。
かがやきながら、行くんだよ。」

正祐「やったらさ、テルちゃん、詩、書かん?」
てる「詩?」
正祐「作文好きなら詩だって書けるよ。僕が曲をつけるけ。」

八十「みすゞというのは本当の名前?綺麗な名前だね。あなた自身はどうなの?」

八十「蜂の中に何が見える。」
てる「神さまが。」
八十「どうした?」
てる「――先生、どうして涙が出るんでしょう。」

テル「――どうしよう。西條先生が会おうって!」

八十「心配しなくても、あなたは詩人です。生活にまみれても。文字さえ書けなくても。」

弥次郎「――あんたの母さんがほんとに不幸だって感じてるとしたら、「今」だろうよ。」
ふさえ「……おじさん、でもあたし、」

喜一郎「さあさあさあ。買うんか買わんのんか。とびきり上等なザラメ、水飴。播磨の飴。うちの飴を買うんか買わんのんか!」

麻緒「――あの店、病気の妓(おんな)多いんてね。あんた大丈夫?」

テル「みすゞ。あんた……はじめからそこにおった?」
てる「おったよ。ずっと。」

テル「傍におってくれた。この理性(こころ)をくれた。これが私――父さんがくれたもん。」

正祐「東京に行こう。詩人としてもう一度。芸術で立つんよ!」

宮本「何かになりたかったんよ。――俺は。」
テル「はい。」
宮本「あんたのことは、大事やった。」
テル「……はい、」
宮本「潮時だ。離縁する。文英堂に帰っちょくれ。」

テル「自分のいのち全部使って、詩を、生きちょるような。」

テル「――みすゞやった。私は。私がみすゞやったのは、この一作のために。」

ふさえ「母さん。わたし、ここにいます。ここでおばあちゃんになるまで生き抜いて、いつかまた会えたら、母さん。よくがんばったねって……誉めてください。」

秋枝「下関西南部町上山文英堂同居人(大津郡仙崎町生まれ)金子てる、十日カルモチンを飲み自殺を遂げた。」

晴子「父ちゃんの方針なんです。お見合い写真やなんかだと、この一枚で、女の人の人生が決まってしまうからって。」
テル「ええんです、私は。美しくなくて。」

三好「――ほしたらね、話しかけるようにするとええですよ。」
テル「話しかける?」
三好「心の中に、誰か大切な人を思い浮かべて。レンズが、つまり私が、その人になるんです。その人に向かって、心の中で好き勝手お喋りをしちょってください。そこを私がバシャッと。なに、気負うことはありません。」
『空のハモニカ−わたしがみすゞだった頃のこと−』
ご観劇くださいまして、ありがとうございました。
またいつか上演できます時を、どうかお楽しみに……!